ドローンは空撮技術を進化させ、私たちの生活やビジネスに大きな影響を与えています。しかし、ドローンに搭載されるカメラは、標準の可視光カメラだけではありません。赤外線カメラのような特殊なカメラをドローンに取り付けることで、通常では困難だった場所での撮影や観測が可能になりました。
今回は、注目が集まる「赤外線カメラ」をドローンにどのように活用できるか、具体的な事例や代表的なメーカーについて詳しく解説していきます。
赤外線カメラって何?
赤外線カメラは、「温度を可視化する」デバイスです。すべての物体は、ある程度の熱を持っており、その熱に伴って赤外線を放出しています。赤外線カメラは、この放出された赤外線エネルギーをキャッチし、温度の違いを画像として表示する機能を持っています。
可視光カメラが通常、私たちの目で見える光(可視光線)を捉えるのに対して、赤外線カメラは人間の目には見えない赤外線を利用するため、表面的には見えない物体の異常や変化を発見することができます。
この技術は「赤外線サーモグラフィ」とも呼ばれ、さまざまな業界で役立っています。
ドローンによる赤外線カメラの導入が進む分野とは?
ドローンにカメラを搭載することで、様々な場所や状況でもデータ収集が可能になりましたが、今回ご紹介している、赤外線カメラを利用することで、今までとは全く違う用途で、多くの情報収集が可能になりました。
そのため、赤外線カメラは、ドローンによる新しいソリューションとして、多種多様な分野でその活用が注目されています。
例えば以下のような分野です。
1.太陽光発電所
2.野生動物の生態調査・監視業務
3.遭難者の探索
4.精密農業
5.住宅・インフラ設備の点検
赤外線カメラの導入事例その1:太陽光発電所ソーラーパネル点検
ドローンによる赤外線カメラの導入において、近年最も需要が高まっているのが、このソーラーパネル点検の分野です。
ソーラーパネルに汚れや影、破損部があると異常発熱を起こし、ホットスポットを引き起こします。
ホットスポットができると、発電効率が下がり、最悪の場合は、パネルの故障にも繋がるため、点検作業を行うことは、太陽光発電所において大変重要なことです。
そこで、従来では、点検者がハンディの赤外線カメラを持ち、発電所内を歩きながら一つ一つパネルの異常箇所の点検を行っていました。
しかしこれでは規模が大きくなればなるほど時間がかかります。
メガソーラーと呼ばれる大規模の太陽光発電所では、点検箇所は数百にも及び、これではあまり効率的とは言えません。
そこでドローンに搭載した赤外線カメラを使うことで、圧倒的な時間短縮を実現することが可能です。
実際、弊社のソーラーパネル点検の実績では、1メガワットの発電所で約9時間かかっていた点検作業が、ドローンでの撮影に切り替えたところ、わずか50分ほどで完了することができました。
これは従来の時間と比べておよそ10倍の速さとなっており、いかにドローンによる点検作業が効率的かを表す数字となっています。
赤外線カメラの導入事例その2:野生動物の生態調査・監視業務
赤外線カメラは、目に見える光の影響を受けることがないため、山の中などので野生動物の生態調査や監視業務などにも活用されています。
近年野生のクマが村に出没する、といったニュースも話題となっていますが、ドローンによる赤外線カメラによる調査を行うことで、山の中に生息しているクマの調査を行うことなども可能になります。
実際にクマの調査を行い、マスコミで報道された記事がこちら。
一見すると、ただの草むらで何もいるようにみえません。ところが赤外線カメラで撮影してみると・・・
草むらに何かがいるのが確認できます。結果的にこれがクマでした。ドローンで上空からクマを監視し、爆竹などで山のほうへと追い返したようです。
被害が出る前に対処できてよかったですね。
JA.com(農業協同組合新聞)ではイノシシやタヌキを上空でドローンから撮影した映像を公開しています。
・赤外線カメラの導入事例その3:遭難者の探索
赤外線カメラでは、物体が放出する赤外線エネルギー(=温度)を検知するため、普通のカメラでは分からないような場所でも、人の温度を検知することで、遭難者などの探索にも活用することが可能です。
現在の遭難者の探索などレスキュー活動においては、ヘリコプターを使った遠赤外線カメラでの探索が行われていますが、出動までにかかる時間と、かなりのコストが発生してしまう点が課題となっています。
ここに、ドローンによる赤外線カメラの探索を導入することで、より早く、コストを抑えた形で人命救助を行うことができるため、早期導入への期待がされています。
DJIは2020年にドローンにより救助された人の数は500確認できているだけで500人と発表しています。
この画像は行方不明になっていた女性(画像下側)をドローンが夜間に赤外線カメラで撮影したものです。
画像の上側に写っている2人はレスキュー隊です。
DJI発表によると2022年3月現在では824人の人命がドローンによって救われています。将来的には自律飛行で人命救助がおこなわれるのでしょうか。
赤外線カメラの導入事例その4:精密農業
農作物の生育状況を把握するため、赤外線カメラは農業分野でも利用されています。ドローンに搭載したカメラで圃場全体の温度分布を測定し、異常がある箇所を早期に発見することが可能です。これにより、効率的な農業管理が行えるようになっています。
詳しくは、「ドローンのお仕事〜精密農業〜」でも紹介していますので、参考にしてみてください。
・赤外線カメラの導入事例その5:住宅・インフラ設備の点検
ドローンに赤外線カメラを搭載することで、住宅やインフラ設備の点検が大幅に効率化されます。従来の点検方法では、屋根や外壁の調査に多くの時間と労力がかかるだけでなく、高所作業に伴うリスクもありました。しかし、ドローンを活用することで、短時間で安全かつ精密に熱漏れや劣化箇所を検出することが可能です。例えば、屋根の雨漏りや送電線の異常温度をリアルタイムで確認でき、メンテナンスの計画が迅速に立てられます。これにより、コスト削減と作業の安全性向上が期待できます。
ドローンに搭載可能な代表的な赤外線カメラ
現在、ドローンでも搭載可能な赤外線カメラとしては「FLIR(フリアー)」社の赤外線カメラが挙げられます。
FLIR社は赤外線カメラにおける世界シェア60%以上を誇る、世界最大手の赤外線カメラメーカーで、ドローン搭載用のものも、いくつか発表しています。
以前はDJIもFLIRと共同の形で製品を発表していましたが、最近では独自に販売を開始しています。以下はDJIが発表しているドローン用赤外線カメラです。
Zenmuse H30T
DJIのZenmuse H30Tは、プロフェッショナルが求める高度な技術を集約したドローン用カメラです。特に注目すべきは、赤外線カメラに加え、34倍の光学ズームと400倍のデジタルズームを備え、さらに精密な距離計測が可能なレーザー距離計も搭載している点です。このため、産業用の設備点検や公共安全、緊急時の捜索活動などで、圧倒的なパフォーマンスを発揮します。
昼夜を問わず、精密なデータを収集できる「ナイトシーンモード」や、1280×1024ピクセルの高解像度赤外線カメラは、特に夜間や視界の悪い環境で効果を発揮します。最大3000メートル先の対象物まで正確に測定できるレーザー距離計を搭載しており、危険な現場でも安全に作業を進められます。
実際にこのカメラの性能を確認したい方は、ぜひ実演会に参加してください。現場での活用方法を実際に確認することができ、H30Tがどのようにして点検作業や救助活動を効率化できるか、体験できます。
旭テクノロジーでは、産業用ドローンのデモ会を開催しています。こちら⇒からメール登録していただけると、産業用ドローンデモ会について、随時案内させていただきます。
Zenmuse H30Tは産業用ドローン「Matrice300RTK・Matrice350RTK」 に取り付けることが可能です。
ドローン導入に使用できる補助金・助成金のサポートも行っています。こちら⇒からお気軽にお問い合わせください。
Zenmuse H20T
ドローンの導入を検討する際に「墜落したら不安だな・・」と感じていませんか。
2020年に発表された最新のZenmuseシリーズ最新のZenmuse H20Tは、操縦者の不安を減らしてくれる機能を備えています。そのコンセプトは下記です。
「遠くからでも接近した映像を」
簡単にいうと高性能なズームにより被写体に近づく必要がなくなり安全度が高まりました。なぜなら遠い距離でも鮮明な映像を撮影することが可能だからです。
ドローンで細かい部分まで撮影する場合、従来のドローンであれば被写体に近づく必要がありました。時には電線や木の枝、電信柱などドローンにとっての障害物に接近します。障害物との距離を保てない場合、それだけ危険度が高まります。
Zenmuse H20Tは墜落の原因となる障害物からの距離をとることで操縦者に安全とすぐれたデータをもたらしてくれます。
次の機能を備えています。
23倍ハイブリッド光学ズーム(最大200倍ズーム)
20MP 1/1.7インチCMOSセンサー
動画解像度4k/30fps
1つのZenmuse H20Tにズームカメラ、広角カメラ、レーザー距離計、赤外線カメラの4つが搭載されています。あなたの仕事を安全にサポートし、納得のいくデータ収集ができるでしょう。
もちろん赤外線カメラもより使いやすく改良されています。あなたが点検中、気になる部分を見つけたとします。画面上で気になる部分をタップするとその場所の表面温度をリアルタイムに測定してくれます。
Zenmuse H20Tは産業用ドローン「Matrice300RTK・Matrice350RTK」 に取り付けることが可能です。
Mavic3 Thermal
Mavic3 Thermalは公共安全、捜索救助、インフラ点検、そして熱画像解析など、専門的な作業に特化した高度なドローンです。このモデルは、Mavic 3 Enterpriseシリーズに属し、可視光と熱センサーを兼ね備えたプロフェッショナル向けのツールとして利用されています。
主な特徴:
- トリプルカメラシステム: Mavic 3 Thermalは、48MPの広角カメラ、12MPの望遠カメラ、そして640×512解像度の熱カメラを搭載しており、あらゆる状況で高解像度の画像と熱検出が可能です。これは、建物点検や消防活動、捜索救助などに非常に役立ちます。
- 56倍のハイブリッドズーム: 56倍のハイブリッドズーム機能により、危険な場所や到達が困難なエリアを遠距離から安全に観察できます。これは、前モデルのMavic 2 Enterprise Advancedの32倍ズームに比べて大幅な改良点です。
- 長時間飛行: 最大飛行時間は45分と、他の多くのドローンを上回る性能を持っています。これにより、一度のフライトでより多くのデータ収集が可能で、特に捜索救助などの緊急ミッションでは大きな利点となります(。
- 熱画像解析: 640×512ピクセルの解像度を持つ熱センサーは、28倍のデジタルズームに対応し、電力設備の点検や捜索救助ミッションにおいて、温度の違いを検出するのに最適です。
- 全方向障害物検知: 全方向に障害物を検知できるシステムを搭載しており、複雑な環境下でも安全な飛行が可能です。下部には赤外線センサーも搭載されており、安定した飛行が保証されています。
- DJI O3 エンタープライズ伝送システム: 最大15km(FCCモード)の伝送距離を誇るこのシステムは、過酷な環境でも安定した通信とリアルタイムの映像伝送を可能にします。
このように、Mavic 3 Thermalは、強力なカメラ技術と長時間の飛行能力、多彩なセンサーを備えており、精度の高いデータ収集と効率的な作業を可能にします。
旭テクノロジーでは、産業用ドローンのデモ会を開催しています。こちら⇒からメール登録していただけると、産業用ドローンデモ会について、随時案内させていただきます。
・Autel EVOⅡ dual 640T
最後に紹介するのはAutelのEVOⅡです。
Autel Roboticsは中国深圳に本社を構えるドローンメーカーですが世界的な中国製ドローン排除の動きをうけ、米国産をアピールしている珍しい企業です。
具体的には本体は中国製、可視カメラは日本のソニー製、赤外線カメラは米FLIR製で最終組み立てを米国で行うことで米国製をうたっています。
またDJI製のドローンは飛行する際に必ずDJIのアカウントを作成する必要がありますが、Autel製のドローンはログインする必要はなく、ユーザーのプライバシー面を重視しています。
機体の性能は十分で全方位の障害物センサーや8Kのカメラを搭載し、飛行時間はカタログスペック上で38分と十分な時間を誇ります。搭載できる赤外線カメラにもいくつか種類がありますが、FLIR bosonを搭載するものはデータの記録ができなくなっているので注意してください。
点検や作業で使用するには640Tのモデルが最適でしょう。
まとめ
赤外線カメラの概要と、現在の導入事例、及びドローンに搭載可能な代表的な赤外線カメラメーカーをご紹介してきました。
最後に現在主流となっているドローンに搭載できる赤外線カメラを比較してみましょう。
旭テクノロジーでは、プラント事業からスタートした長年の経験を活かし、法人向けにドローンの導入支援を行っています。ドローンの運用だけでなく、データ収集した後の画像処理まで一気通貫で支援が可能です。現場で課題を感じられている方はお気軽にご相談ください。専門家に無料相談してみる⇒